清遊ブログ  「端午の茶会」 平野の家 わざ 永々棟 にて

風薫る五月のある日、「端午の茶会」にうかがいました。

平野神社と北野天満宮のなかほど、閑静な住宅街に、
ここ「平野の家 わざ 永々棟」があります。

001 .jpeg
門をくぐり、玄関へつづく石畳。
002 .jpeg
植え込みの緑が気持ちを和ませてくれます。

002 -1 .jpeg

 


この「平野の家─」は、大正時代に建てられた屋敷を、数寄屋建築で知られる山本隆章棟梁と伝統技術をもつ職人さん達の力によって新しく生まれ変わった建物。2010年に完成しました。

003 .jpeg

「わざ 永々棟」は上棟式にさいして、「千歳棟、萬歳棟、
永々棟」と棟梁が声を掛け、大工が木槌を振り下ろして
棟納めをする習いから名づけられたそうです。

 


大正期の、そして現代の木造建築の知恵と技が結集されています。

 


受付をすませて寄付(よりつき)へ─

寄付の色紙は光悦書画 ベルリン博物館蔵写。

「己が妻 恋ひつつ鳴くや五月闇 神南備山の山郭公」 新古今集より

待合は琉球畳の敷かれた民芸風の明るい空間。
掛物 主人公 鍾馗画賛

007.JPG


旧暦では端午の節句は六月のちょうど梅雨どきにあたります。

昔の人は疫病が流行らぬよう邪気を払い、健康を願ったことでしょう。

中国で唐の時代、玄宗皇帝の病を治したという故事からか、鍾馗(しょうき)さんに魔除けを託すようになったといわれています。
京都ではよく家々の軒に挙げられた鍾馗さんを見かけますね。

008.JPG

ユーモラスな鍾馗さんにご挨拶し、会記を拝見。

この部屋と、隣の土間が今日は待合になっています。
エラールピアノが置かれてコンサートも行われる空間。

006-1 .JPG


立派な箙(えびら)と弓矢も置かれています。

 


席入りのご案内がありました!

招き入れられたのは木の香りがするような清々しい広間。

011 .jpeg

白砂と緑の美しい庭に面しています。

017-1 .JPG


018.JPG


掛物 「清 松風塵外心」(しょうふうじんがいのこころ) 

      元南禅寺管長 柴山全慶老師

香合 兜 真田幸村六文銭


花  菖蒲
花入 鐙
琵琶床 烏帽子 下鴨神社
012 .jpeg 


清新の気あふれる掛物。

紫の菖蒲が生けられているのはなんと馬に乗るときに足を置く鐙(あぶみ)です。


013-1.JPG
花入に見立てられた鐙とは!

この姿、床にぴたりと納まっています。


本来のあるべき姿ではなく別のものとして見る、役割を担わせるという「見立て」の心。

ご亭主の遊び心? が感じられてわくわくします。


香合は日本一の兵(つわもの)といわれた真田幸村の兜。
朱が彩を添えています。男子の武運長久にかなうお道具。

014 .jpeg


端午の節句は男子の節句。

干支では五月は午(うま)の月にあたり、午の月の端(初め)の午の日を節句として祝っていたものが、五の音と同じことから五月五日になったといいます。

 


風炉先 桑 つぼつぼ透し

風炉・釜 琉球風炉 切り合せ


棚 荒磯棚(ありそだな)

水指 浅葱交趾釉(あさぎこうちゆう)
016.JPG

点前座は木地の棚や風炉先屏風、浅葱交趾釉の水指が清々しさを演出しています。
写真では見えにくいのですが、風炉先の透かしになる「つぼつぼ」は千家の替え紋。

千利休の孫の宗旦が京都の伏見稲荷を信仰していたので、伏見稲荷で初牛の日の土産物であった田宝(でんぼ)と呼ばれる素焼きの器を紋にしたといわれているそうです。


お客方が着座されたところで、

亭主(席主)が入られ、正客、次客と順にみなさん全員にご挨拶。

なごやかに茶会が始まりました。

流れるようなお点前をみながら、お菓子をいただき、
主客の間に交わされるお話をうかがいます。


022-1 .jpeg
赤絵の鉢から主菓子を取り回して。

024 .jpeg

                     銘「白馬」 紫野源水製
主菓子の銘は「白馬」だそうです。なるほど!
掛けられているのは手綱ですね。
中は黄味餡のサプライズ! ああ美味し…。

干菓子は青海波の丸盆に盛られています。

025 .jpeg

                 銘「吹き流し」 千本玉寿軒製


点てられたお茶が半東によって運ばれます。
023 .jpeg
京焼でしょうか? 兜の絵のはんなりしたお茶碗。

026 .jpeg

たっぷりと点てられて、ふくよかな味わいの一服をいただきました。
今日の正客のお茶碗は馬上盃(ばじょうはい)。
ひとつ上の写真で、手に取って拝見されているのがその茶碗です。




CIMG4998.jpeg 

お客方と歓談される席主の石橋宗郁さん。
ここで月に一度、初心者の方向けに茶道教室を開かれています。


茶器と茶杓を拝見しましょう。
茶器は折撓棗(おりだめなつめ)。
CIMG4995.jpeg
堂々として、一見、男性的な印象ですが、蓋をあけると朱漆に金切箔が鮮やかです。

CIMG4994.jpeg

初代橋村萬象(はしむらばんしょう)の作。
橋村家は木具師として奈良時代から宮中に仕えたお家。
しかし千三百年とは!

 


瀟洒な竹の茶杓は銘「しのび音」。
CIMG4996.jpeg
しのび音(ね)とはほととぎすの初音だそうです。
寄付(よりつき)の色紙は
神南備山(かんなびやま)の山郭公(ほととぎす)画賛でした。
山の静謐をかすかに破る声でしょうか。


さて、神南備山、馬上盃の茶碗、琵琶床に飾られた烏帽子、しかも下鴨神社の、となれば先日の葵祭を思いださずにはいられません。
015 .jpeg

まだ幾日か前に新緑まばゆい加茂街道で路頭の儀の美しい行列を見送ったばかり、いまだその光景が目に焼き付いています。
りりしい近衛使(このえつかい)の本列。斎王代の華やかな女人列。
さまざまに飾られた花笠、などなど。

 


馬の首に鈴を懸けて走らせたのが賀茂の祭りの起こりと伝わるそうですが、今日の流鏑馬(やぶさめ)や競馬(くらべうま)にいたるまで、賀茂の祭りと馬は深いかかわりを持ってきたといえましょう。


今日のお席は端午の節句を迎え、あわせて今年も祭りが無事に終わったことを想う一会となりました。
021 .jpeg

                美しい截金のほどこされた欄間


席のあと、建物のなかをご案内いただきました。

一階の「聚楽庵」は三畳半の茶室。
CIMG5005.jpeg

005 .jpeg
写ってないのですが土間のハシリにはおくどさんがありました。

CIMG5035.jpeg


二階の座敷に上がりますと、
CIMG5022.jpeg
二方に開け放たれた眺めがすばらしいです。

CIMG5023.jpeg

見下ろすとお庭の白砂は州浜になっているのがよくわかります。

CIMG5010.jpeg

CIMG5024.jpeg
唐紙の襖は光線の角度によってさまざまに映ります。
CIMG5026.jpeg
欄間は源氏香の意匠。

CIMG5028.jpeg


格調高く、風雅なしつらい。

つぎは洋間へ。
CIMG5020.jpeg
窓の下は一階からは吹き抜けのようになっています。

009.JPG


サンルームの窓に施されたステンドグラスは四神を表します。

北は玄武を。
CIMG5014.jpeg
南の朱雀と西の白虎。

CIMG5013.jpeg


CIMG5016.jpeg
CIMG5017.jpeg
では東は…建物の東に流れる紙屋川を青龍に見立ててのこと。
福助さんもおられました。

CIMG5019.jpeg


あちらこちらに伝統の技術と創意が光る、まさにわざの結集です。

CIMG5029.jpeg


今日はご亭主や社中の皆さまと久方ぶりに再会でき、懐かしく愉しい一日となりました。


もてなしの心通う一会に感謝し、伝統と創造の風さわやかに吹く
「平野の家 わざ 永々棟」を後にいたしました。

019 .jpeg

 

 

 

 

 

 

「清盛と芸能」講座ご報告

初夏を思わせる陽気となった55日、京都アスニ―において、とっておき講座「清盛と芸能の世界」を催しました。

今日は、現代の白拍子(井上由理子講師)による芸能、
堤講師による「十二世紀という時代と梁塵秘抄」のお話、
さらに井上講師に、皆さんから、あるいは堤講師から質問をしていただくコーナーの三部構成です。
001 _R.jpeg


いよいよ始まりました。

002 _R.jpeg

衣ずれの音がして─

烏帽子に水干、緋の長袴、白鞘巻の太刀をはいた白拍子の姿。


まずは、琵琶・四絃の演奏「祇王」

003_R.jpeg

つづいて、白拍子 語り 『平家物語』より「祇王の事」
琵琶の音、白拍子の語る声に引きこまれてゆく世界。

張りつめた空気とあいまっての心地よさ。



白拍子舞「祇王」

005_R.jpeg


P1000520_R.jpeg
美しく、哀しく、清澄な舞。

P1000534_R.jpeg


皆さん、どのように感じられたのでしょうか。

P1000537_R.jpeg


P1000553_R.jpeg
終わって思わずため息がでました。
休憩して一息入れ、
堤講師の講義が始まりました。

CIMG4451_R.jpeg


白拍子、傀儡(くぐつ)、歩き巫女などのいた時代、特に12世紀に焦点をあて、白河、鳥羽、後白河法皇の治世が日本の歴史上どのような時代であったのか、また当時の芸術や今様について画像も駆使しお話していただきました。
008 久能寺経 薬草喩品の見返し絵 個人蔵.jpeg
                     久能寺経
011 信貴山縁起絵巻 信貴山縁起 山崎長者の巻(部分).jpeg
                   信貴山縁起絵巻
010 平家納経.jpeg
      平家納経 見返し絵
さらに、「梁塵秘抄」に収録されている歌─法文歌(ほうもんのうた)や神歌(かみうた)などを紹介いただき、言葉の創り出す世界観について、堤講師独自の解釈からは学ぶことが沢山ありました。


最後には井上講師に再登場いただきました。

CIMG4461_R.jpeg


社寺での奉納の様子や、桜の木の下で、あるいは琵琶湖畔の葦の群生しているなかで舞う姿など貴重な画像も見せていただき、熱心な皆さんからはさまざま質問が寄せられました。


自然と神と仏と白拍子─。

室町中期にはもう途絶えてしまったという芸能を、ときには風を神と感じ、ときには自然の生命力を借りるごとく戯れ舞い、求める姿。


先ほど私たちが目にした姿が重なります。

P1000551_R.jpeg


──戯れせんとや生まれけむ…。


歴史の中で変容してゆく芸能のすがたをたどりつつも、そのうちに秘めて深遠な世界のあることを教えていただいた一日でした。
                       

CIMG4477_R.jpeg

          
  深泥池のかきつばた  
水辺に舞う白拍子を連想して