清遊ブログ  水無月の茶会 弘道館にて

梅雨入りして初めての日曜日、上京区にある弘道館のお茶会にうかがいました。

弘道館は、江戸時代、儒者・皆川淇園(みながわきえんが開いた学問所。

現在は茶会や講座など幅広い文化活動が行われています。

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その日は晴れて茶会日和になりました。

上長者町通新町を東へ。石碑に「皆川淇園弘道館址」とあります。

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門を潜って玄関までのアプローチ。

木々の緑や青苔に目をとめながら奥へ。

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「有斐斎」(ゆうひさい)は淇園の号のひとつ。

中門をくぐり、さらに奥へ。期待が高まります。

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玄関で受付けをすませ、待合(まちあい)に通されました。

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床は利休の孫、宗旦とお見受けしました。

煙草盆には涼しげな蛍籠。

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驚いたのは床の外、脇に冠(かんむり)が掛かっていたこと! 

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席入りの案内がありました。

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本席に入りすぐの床には流鏑馬(やぶさめ)のりっぱな馬が描かれた双幅。

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前には、なんと可愛らしい、斎王代が禊をされているお人形。

つい先だってのお祭を思い出します。

床を拝見。

掛物は「清流無間断」(せいりゅうかんだんなし)

大徳寺三玄院玄性和尚筆一行。

水色の交趾花入に山芍薬が生けられて爽やかです。

団扇香合は「曳き舟」の画。清々しい木地に描かれた人物がほほえましい。

今日は「水」にちなんだ趣向のようです。

つづいて点前座を拝見。

なんと、注連飾(しめかざり)をした木地の釣瓶(つるべ)水指が置かれています。

釜は中ほどが霰文の鶴首釜、風炉は織部。模様は芦の画だそうです。

杉の風炉先は笹の透かしでしょうか、清涼感をいっそう引き立てる役も担って。

皆が着座し、お点前が始まりました。

ご亭主が挨拶に出られ、今日の趣向を伺います。

釣瓶水指に注連飾りを施して茶を点てる点前を「名水点て」といい、濃茶の点前ですが、今日は薄茶で名水点てをしていただけるとのこと。

注連飾りは水に対する畏敬の念ゆえの飾り。気持ちもぐんと引き締まります。

今日点てられる名水は、はてどこのお水かしらんと想像するのも楽しいものですが…

下鴨神社の境外摂社、賀茂波爾(かもはに)神社のご神水でした。

賀茂波爾神社といえば、「赤の宮」ともいい、葵祭にもゆかりの神社。

御蔭祭(みかげまつり)の折、路次祭が行われ、「還城楽」(げんじょうらく)の舞楽が奉納されるところです。

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    賀茂波爾神社(京都市左京区高野)

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そういえば、お水を汲みに来る方が絶えなかったのを思い出しました。

さらにご亭主より、今日は名水点てとともに夏越(なごし)の祓もあわせてのつもりで、とのこと。なるほど、水無月の祓、夏越の祓、嬉しいですね。

夏越の祓は一年のちょうど折り返しにあたる六月晦日に半年の罪や穢れを祓い、残り半年の無病息災を祈願する神事。

神社で茅の輪をくぐり、お参りされる方も多いのではないでしょうか。

大勢が気楽に参会できる茶会に、格調高い名水点てで禊(みそぎ)の気分を取り入れてくださいました。

客をもてなすため自在に茶会を組み立てられた、まさにご亭主の心の働きです。

たっぷりと点てられた一服をおいしくいただきました。

名水のお水もいただきました。まろやかなお水でした。

お菓子は老松製で「氷室」。白餡に紅色の三角形の羊羹をのせた葛饅頭。

氷室とは、冬季の氷を夏まで貯蔵しておく室のこと。平安時代、六月朔日は「氷室の節会」(せちえ)が行われ、氷室から氷を切り出し宮中に献上したそうです。

 

「氷室」は裏千家八代一燈(いっとう)宗室の好み。

 葛の透明感は目にも涼しく、ギヤマンの器に盛られたさまはすばらしかったです。

 涼やかな干菓子「青苔」(せいたい)は同家十四代無限斎夫人・清香院好み。

棗は河太郎棗(かわたろうなつめ)。蓋の甲がくぼんでいるのが見えるでしょうか、河太郎は河童。河童のお皿ですね(笑)

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茶杓は銘「瀬織津姫」。瀬織津姫は川や水の祓の女神。今日のテーマにぴったりです。

御手洗祭でおなじみの下鴨神社の井上社のご祭神であり、来月にせまった祇園祭の鈴鹿山のご神体でもあります。ご神体のお前立ちは気品のある、まさに美の女神のお姿。

なごやかな席のあと、お道具やしつらいをもう一度拝見しました。

客座の後ろには皆川淇園筆の屏風が立てられておりました。

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皆川淇園17341807は「開物学」という独自の学問を打ち立てた人物ですが、詩文や書画にも優れ、円山応挙、与謝蕪村、長沢蘆雪ら多くの文化人との交流が知られています。

弘道館は淇園が晩年に開いた私塾で、門弟は三千人であったとか。

その淇園の迫力ある画と書にしばし見入っていました。

茶席のあとお庭も堪能しました。ごらんください。

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今回は新緑清々しい弘道館にて、水無月の茶会をご紹介しました。

賀茂の祭から祇園祭へ向かう橋渡しのような京の水無月。

春から夏へ季節はつながり、茶席にはこの町ならではの趣向がちりばめられておりました。

清遊ブログ  京の花、やすらいの花

ことしは雨の多い花見どきですが、いかがお過ごしでしょうか。

京都は桜の見どころもいっぱいですね。

賀茂川の桜。何処も見事ですが、毎年見に来るのは上賀茂橋から北の堤防沿い、桜のトンネルです。

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北山橋から北大路橋まではすこし時期をずらして枝垂が咲き、

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出町辺りの景色もまた格別。

出町橋から葵橋を眺めると、遠くに北山が重なり絵のような風景。

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出町といえば、いまは北野の七本松通にありますが、元は出町にあった立本寺(りゅうほんじ)も桜の見どころ。

境内は桜の木がいっぱい!

日蓮宗の本山寺院としての歴史は相当なものですが、となりの公園では子供たちの遊ぶ声がして、町中のお寺らしく散歩がてら花見にやってくる、そんな庶民的な雰囲気です。

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雨あがりに足をのばして、宇多野まで出かけました。

桜守として知られる佐野藤右衛門さんのお庭は、桜の頃、一般に公開されています。

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いったい何種類あるのでしょう、さまざまな桜! 

名前が書かれています。

「永源寺」「大提灯」「胡蝶」

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「鷲尾」「御信」「白妙」「御室有明」

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そして「佐野」!

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まだまだたくさんあります…。

それぞれの個性を誇って可憐に咲く花、花、花。

ここまで来た甲斐がありました。

花に誘われ花を追いかけるうち、早くも春の祭が始まります。

4月の第二日曜は「やすらい祭」。

紫野の今宮神社では、「川上やすらい」と「上野やすらい」が、氏子地域を練り歩いたあと、午後三時頃に到着、やすらい踊を奉納されました。

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「やすらい」は、花が散り始める頃、花の精にのって疫神が飛散するのを鎮めるために行われる祭。

紫野辺りでは古くから疫病が流行ると御霊会が営まれていました。

「やすらい」はお囃子や歌舞によって疫神を風流傘(ふりゅうがさ)に集め、神威を仰いで疫社(えやみしゃ)に送り込むのだそうです。

「川上やすらい」は西賀茂の川上大神宮のお祭。踊りは太鼓を上に振り上げるようにして叩く力強いもの。

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そして「上野やすらい」も到着しました。

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本殿、疫社に参拝、やすらいを奉納。

ただし、たいへんな人で場所を動くことができず、これは見られませんでした。

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今宮神社の疫社の神紋は八坂神社と同じ、五瓜の紋。ご祭神も同じくスサノヲノミコトです。今日も祇園祭と同じ「蘇民将来子孫也」の人形(ひとがた)護符が授与されていました。

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さて、場所を移され、やすらいを堪能!

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お囃子の笛や歌に合わせて、赤毛、黒毛の鬼が鉦や太鼓を奏し踊り、散りかけた桜の花びらが時おり風にはらはら舞い、ほんとうに花鎮めの祭やなあと感激です。

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やすらい祭は京中の祭のさきがけで、やすらいがお天気なら、その年の祭はみな好天に恵まれると言われています。今日はすっきり晴れました。

さて、夕方は玄武神社のやすらい祭「玄武やすらい花」を。

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玄武神社のご祭神は、惟喬(これたか)親王。

平安時代、文徳天皇の第一皇子でありながら天皇にはなれず、不遇の生涯を送られました。

玄武は北方の守護神、その姿が亀に蛇がまつわることから「亀の宮」とも呼ばれています。

予定よりずいぶん遅れて三基の花傘がもどってきました。

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花籠を載せているので鳥居をくぐるのにもひと苦労。(笑)

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ですが、待ったかいあって、ぶつかりそうになりながらぶつからない?ダイナミックな踊りを見ることができました。

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玄武やすらいは、往時この地に栄えた旧雲林院の祭に端を発するといわれます。

ご祭神の惟喬親王や親王をお祀りした人々の御霊を慰めるものでもあるのでしょう。

毎年耳にするこのお囃子と歌、その激しい踊りと相俟ってどこか哀しげな響きも感じられます。

やすらいの由緒にまつわるお話はとても書ききれませんので、いずれまた清遊講座をおたのしみに!(笑)

そして「やすらい」はもう一つ、515日に行われる上賀茂地区のやすらい祭があります。

ご紹介できませんので代わりに、410日に行われました上賀茂さんの摂社・大田神社の春祭の「ちゃんぽん神楽」をごらんください。うまく撮れていませんがご容赦ください。

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雨の降るなか、神寂びた社でお神楽が奏され、それはそれは清浄な気に満ちていました。

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そんなこんなで花や祭を追いかけ浮かれているうち、はや今月も半ば。

大田の沢にかきつばたが見られるのももうじきです。

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